税務論点整理|ケーススタディ

国税の「分納」は法人と代表者個人で
別々に判断されるか

「代表者が自分の所得税を払えているなら、会社の消費税も払えるはずだ」。
徴収の現場でそう言われたとき、それは法令上の要件なのか、それとも別の話なのか。
猶予制度の条文にさかのぼって整理します。

設例:法人が消費税を一時に納付できず、分けて納める申請を検討している。
一方、その法人の代表者個人は、自身の所得税を滞納せずに納付している。
この場合に、「代表者個人が所得税を納付できているのだから、法人の消費税も納付できるはずだ」という理由で、法人の申請が認められないことはあるか。
また、同じ納税者の中で税目が異なる場合は、それぞれ別々に判断されるのか。

結論 ― まずこの3点

1

法人と代表者個人は
別々に判断される

両者は国税上それぞれ別個の納税者です。
条文は判断の対象を「その国税の納税者・滞納者本人」と書いており、代表者個人の納付状況を法人の許可要件とする定めは、条文・通達・様式のいずれにも見当たりませんでした。

2

ただし事実上の接点は
3つある

様式が役員の報酬額と所有財産を求めること、換価の猶予では代表者個人も調査の相手方になりうること、役員給与が法人の運転資金の計算に効いてくること
「まったく影響しない」とまでは言えません。

3

税目間はむしろ逆
ここが要注意

申請による換価の猶予は、同じ納税者に他の国税の滞納があると使えません(国税徴収法151条の2第2項)。
法人税と消費税、所得税と贈与税のように税目が違っても同じです。
納税の猶予にはこの制限がありません。

質問と答えの対応

質問答えひとこと
代表者個人が所得税を納付できていることを理由に、法人の消費税の分納が認められないことはあるか 要件としては
ない
そのような要件を定めた規定は見当たりません。
ただし役員報酬の水準という別の角度から、実質的に近い議論が出てくる余地はあります。
個人としての分納と法人としての分納は、別々に判断されるという理解でよいか おおむね
そのとおり
法令の建付けとしては別個です。
ただし様式・調査権限・納付能力の計算に接点があり、「まったく無関係」ではありません。
同じ納税者で税目が違う場合(法人税と消費税、所得税と贈与税など)も別々か 制度により
逆になる
申請による換価の猶予は別々になりません。
他の国税が滞納のまま残っていると使えません。
納税の猶予なら他に滞納があっても受けられます。
そもそも「分納」とは何か 2系統
ある
納期限そのものを延ばす延納と、猶予制度の中の分割納付
国内取引の消費税に延納はないため、今回は後者の話です。

制度の早見表 ― 滞納前に使えるのはどれか

  納税の猶予
(国税通則法46条2項)
申請による換価の猶予
(国税徴収法151条の2)
職権による換価の猶予
(国税徴収法151条1項)
申請期限 条文上の定めなし 納期限から6月以内
納期限前でも提出可
税務署長の職権
他に滞納が
あるとき
受けられる 使えない 要件とされていない
特別な事情
(猶予該当事実)
必要
災害・盗難、病気・負傷、事業の廃止休止、著しい損失など
不要
一時に納付すると事業の継続又は生活の維持が困難になること
不要
同左、又は徴収上有利であること
期間 1年以内
(延長を含め通算2年まで)
1年以内
(延長を含め通算2年まで)
1年以内
(延長を含め通算2年まで)
延滞税 災害・病気が理由なら全額免除
事業の廃止・著しい損失なら2分の1免除
2分の1免除 2分の1免除
この表から読み取れること

今回の設例のように特別な事情がないが資金繰りが厳しいという場合、まず候補になるのは申請による換価の猶予です。
ただしこの制度は「他に滞納がないこと」が要件なので、法人に消費税以外の未納があるかどうかの確認が最初の関門になります。
逆に、災害や病気といった事情がある場合は、納税の猶予のほうが延滞税の面でも有利になりえます。

まず確認する5点

  • 1法人に消費税以外の滞納国税がないか。
    源泉所得税や法人税に未納があると、申請による換価の猶予はそのままでは使えません。
    合わせて申請するか、先に納付しておく必要があります。
  • 2消費税の納期限から6か月を経過していないか。
    過ぎると申請の道が閉ざされます(職権による換価の猶予の余地は残ります)。
  • 3猶予を受けようとする金額が100万円を超えるか。
    100万円以下なら財産収支状況書1部で足り、担保も不要です。
    超えると財産目録と収支の明細書が必要になり、全役員の報酬額・所有財産等の記載を求められます。
  • 4代表者への役員報酬の水準はどうか。
    過大な役員給与として否認された経緯があると、法人の運転資金の計算から除かれます。
    金額の合理性を説明できる資料を用意しておくと安全です。
  • 5代表者個人と法人の間に貸付金・借入金があるか。
    ある場合、換価の猶予の調査では代表者個人も質問検査の相手方になりえます。

つまずきやすい4点

補正に応じないと申請そのものが消える

申請書や添付書類に不備があると補正を求められます。
通知を受けた日の翌日から20日以内に補正しなければ、申請を取り下げたものとみなされます
要件を満たしていても申請が消えてしまうため、最も注意を要する点です。

申請中も許可後も督促状は届きます。
国税庁もあらかじめその旨を案内しています。
督促状が来たことをもって「申請が通らなかった」と誤解しないよう、相談者へ伝えておくと安心です。

1年で完納できなくても道はあります。
猶予期間は当初1年ですが、延長を含め通算2年まで認められる余地があります。
ただし申請は当初の猶予期間が終わる前に行う必要があります。

猶予に入る前の打ち手もあります。
消費税であれば、前年実績による中間申告に代えて仮決算による中間申告を行うことで、業績が落ちている局面では中間納付額そのものを圧縮できます。
滞納になる前に資金繰りを整える方法として、猶予の申請より前に位置する選択肢です。

もうひとつの誤解 ― 「払えないなら代表者が払え」

法人が納税できない場合に代表者個人へ納付を求める話は実際に存在します。
ただし、代表者であるという理由だけで法人の国税について納税義務を負うことはありません。

  • 第二次納税義務は国税徴収法33条から41条までに類型が法定されており、そのいずれかに該当する必要があります
  • 株式会社の代表取締役は、合名会社等の社員の第二次納税義務(33条)の対象外です
  • 実際に問題になりうるのは、法人から代表者への無償譲渡や著しい低額の譲渡等があった場合(39条)などに限られます
  • 徴収するには納付通知書による告知という正式な処分が必要で(32条1項)、これは不服申立ての対象になります
  • 告知がない限り、代表者個人に法的な納付義務は生じません

ここまでが要点です。
条文の文言、通達・事務運営指針の該当箇所、申請書の様式、延滞税の免除の切り分けなど、
根拠まで確認したい場合は詳細版をご覧ください。

本ページは、国税通則法・国税徴収法・消費税法の条文、国税徴収法基本通達、国税庁の事務運営指針「納税の猶予等の取扱要領」、国税庁「猶予の申請の手引」および申請書・添付書類の様式、国税庁「国税の納税の猶予制度FAQ」で確認した範囲を、一般的な設例として整理したものです。
個別の事案への当てはめは、事実関係により結論が変わります。
実際の申請にあたっては、根拠条文および所轄税務署での確認をお願いします。