「代表者が自分の所得税を払えているなら、会社の消費税も払えるはずだ」。
徴収の現場でそう言われたとき、それは法令上の要件なのか、それとも別の話なのか。
猶予制度の条文にさかのぼって整理します。
設例:法人が消費税を一時に納付できず、分けて納める申請を検討している。
一方、その法人の代表者個人は、自身の所得税を滞納せずに納付している。
この場合に、「代表者個人が所得税を納付できているのだから、法人の消費税も納付できるはずだ」という理由で、法人の申請が認められないことはあるか。
また、同じ納税者の中で税目が異なる場合は、それぞれ別々に判断されるのか。
両者は国税上それぞれ別個の納税者です。
条文は判断の対象を「その国税の納税者・滞納者本人」と書いており、代表者個人の納付状況を法人の許可要件とする定めは、条文・通達・様式のいずれにも見当たりませんでした。
様式が役員の報酬額と所有財産を求めること、換価の猶予では代表者個人も調査の相手方になりうること、役員給与が法人の運転資金の計算に効いてくること。
「まったく影響しない」とまでは言えません。
申請による換価の猶予は、同じ納税者に他の国税の滞納があると使えません(国税徴収法151条の2第2項)。
法人税と消費税、所得税と贈与税のように税目が違っても同じです。
納税の猶予にはこの制限がありません。
| 質問 | 答え | ひとこと |
|---|---|---|
| 代表者個人が所得税を納付できていることを理由に、法人の消費税の分納が認められないことはあるか | 要件としては ない |
そのような要件を定めた規定は見当たりません。 ただし役員報酬の水準という別の角度から、実質的に近い議論が出てくる余地はあります。 |
| 個人としての分納と法人としての分納は、別々に判断されるという理解でよいか | おおむね そのとおり |
法令の建付けとしては別個です。 ただし様式・調査権限・納付能力の計算に接点があり、「まったく無関係」ではありません。 |
| 同じ納税者で税目が違う場合(法人税と消費税、所得税と贈与税など)も別々か | 制度により 逆になる |
申請による換価の猶予は別々になりません。 他の国税が滞納のまま残っていると使えません。 納税の猶予なら他に滞納があっても受けられます。 |
| そもそも「分納」とは何か | 2系統 ある |
納期限そのものを延ばす延納と、猶予制度の中の分割納付。 国内取引の消費税に延納はないため、今回は後者の話です。 |
| 納税の猶予 (国税通則法46条2項) |
申請による換価の猶予 (国税徴収法151条の2) |
職権による換価の猶予 (国税徴収法151条1項) |
|
|---|---|---|---|
| 申請期限 | 条文上の定めなし | 納期限から6月以内 納期限前でも提出可 |
税務署長の職権 |
| 他に滞納が あるとき |
受けられる | 使えない | 要件とされていない |
| 特別な事情 (猶予該当事実) |
必要 災害・盗難、病気・負傷、事業の廃止休止、著しい損失など |
不要 一時に納付すると事業の継続又は生活の維持が困難になること |
不要 同左、又は徴収上有利であること |
| 期間 | 1年以内 (延長を含め通算2年まで) |
1年以内 (延長を含め通算2年まで) |
1年以内 (延長を含め通算2年まで) |
| 延滞税 | 災害・病気が理由なら全額免除 事業の廃止・著しい損失なら2分の1免除 |
2分の1免除 | 2分の1免除 |
今回の設例のように特別な事情がないが資金繰りが厳しいという場合、まず候補になるのは申請による換価の猶予です。
ただしこの制度は「他に滞納がないこと」が要件なので、法人に消費税以外の未納があるかどうかの確認が最初の関門になります。
逆に、災害や病気といった事情がある場合は、納税の猶予のほうが延滞税の面でも有利になりえます。
申請書や添付書類に不備があると補正を求められます。
通知を受けた日の翌日から20日以内に補正しなければ、申請を取り下げたものとみなされます。
要件を満たしていても申請が消えてしまうため、最も注意を要する点です。
申請中も許可後も督促状は届きます。
国税庁もあらかじめその旨を案内しています。
督促状が来たことをもって「申請が通らなかった」と誤解しないよう、相談者へ伝えておくと安心です。
1年で完納できなくても道はあります。
猶予期間は当初1年ですが、延長を含め通算2年まで認められる余地があります。
ただし申請は当初の猶予期間が終わる前に行う必要があります。
猶予に入る前の打ち手もあります。
消費税であれば、前年実績による中間申告に代えて仮決算による中間申告を行うことで、業績が落ちている局面では中間納付額そのものを圧縮できます。
滞納になる前に資金繰りを整える方法として、猶予の申請より前に位置する選択肢です。
法人が納税できない場合に代表者個人へ納付を求める話は実際に存在します。
ただし、代表者であるという理由だけで法人の国税について納税義務を負うことはありません。
ここまでが要点です。
条文の文言、通達・事務運営指針の該当箇所、申請書の様式、延滞税の免除の切り分けなど、
根拠まで確認したい場合は詳細版をご覧ください。
設例:法人が消費税を一時に納付できず、分けて納める申請を検討している。
一方、その法人の代表者個人は、自身の所得税を滞納せずに納付している。
この場合に、「代表者個人が所得税を納付できているのだから、法人の消費税も納付できるはずだ」という理由で、法人の申請が認められないことはあるか。
また、同じ納税者の中で税目が異なる場合(法人税と消費税、所得税と贈与税など)は、それぞれ別々に判断されるのか。
1:「分納」という言葉は法令上2つの別系統を指す。
納期限そのものを延ばす延納と、猶予制度の中の分割納付である。
消費税を分けて納める話は後者にあたる。
2:法人と代表者個人は、国税の手続上それぞれ別個の納税者。
代表者個人の納付状況を法人の許可要件とする定めは、条文にも通達にも様式にも見当たらない。
3:ただし「まったく影響しない」とは言えない。
様式・調査権限・納付能力の計算という3つの事実上の接点がある。
4:税目間はむしろ逆。
申請による換価の猶予は、他の国税の滞納があると使えない(国税徴収法151条の2第2項)。
納税の猶予にはこの制限がない。
5:延滞税の免除は、猶予の種類ではなく猶予該当事実の内容で全額免除と2分の1免除に分かれる。
最初に用語を整理します。
日常会話では「分納」と一言で言いますが、法令上は起点の異なる2つの制度が存在し、要件も効果もまったく別です。
どちらの話をしているかが定まらないと、議論がかみ合いません。
| 系統 | 制度 | 性質と根拠 |
|---|---|---|
| 延納系 | 所得税の延納(所得税法131条) 延払条件付譲渡に係る延納(同132条) 相続税・贈与税の延納(相続税法38条) |
納期限そのものを法律上延長して年賦や分割で納める制度。 「分納税額」「分納期限」「分納期間」という語はこの系統の法令用語(所得税法133条1項・136条、相続税法39条1項・52条、租税特別措置法93条3項・4項1号)。 附帯税は延滞税ではなく利子税(国税通則法64条1項)。 |
| 猶予系 | 納税の猶予(国税通則法46条) 換価の猶予(国税徴収法151条・151条の2) |
猶予した金額を複数回に分けて納めさせる方法が「分割納付」(国税通則法46条4項、国税徴収法152条1項)。 国税通則法46条4項は「分割して納付させることができる」と裁量的だが、国税徴収法152条1項は「分割して納付させるものとする」。 換価の猶予では分割納付が原則の姿になっている。 |
国内取引に係る消費税には、所得税や相続税のような延納の制度が設けられていません。
したがって「法人の消費税を分けて納める」という話は、必然的に猶予制度の分割納付を指すことになります。
(保税地域からの引取りに係る消費税には、担保提供を前提とした納期限の延長が消費税法51条に置かれていますが、これは別の制度です)
猶予制度は、納税の猶予が3種類、換価の猶予が2種類の計5つに分かれます。
このうち納期限前の段階から準備できるものが限られる点が実務上の要点です。
| 制度 | 根拠 | 申請期限 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 相当な損失を受けた場合の納税の猶予 | 国税通則法46条1項 | 災害のやんだ日から2月以内 | 納期限から1年以内 |
| 通常の納税の猶予 | 国税通則法46条2項 | 条文上の期限の定めなし | 1年以内 |
| 一定期間後に税額が確定した場合の納税の猶予 | 国税通則法46条3項 | その国税の納期限内 (やむを得ない理由があると認める場合は納期限後の申請も含む) |
納期限から1年以内 |
| 職権による換価の猶予 | 国税徴収法151条1項 | 税務署長の職権 | 1年以内 |
| 申請による換価の猶予 | 国税徴収法151条の2第1項 | 納期限から6月以内 | 1年以内 |
申請による換価の猶予の申請期限は「納期限から6月以内」ですが、納期限より前に提出することもできます。
この場合の猶予期間の始期は、法定納期限の日の翌日となります(徴基通151条の2関係8)。
ここでいう納期限は法定納期限ではなく具体的な納期限を指します(徴基通151条の2関係5)。
猶予期間は延長できます。
猶予をした期間内に納付できないやむを得ない理由があると認めるときは、申請により期間を延長でき、既に猶予をした期間と合わせて2年を超えることができないとされています(国税通則法46条7項。換価の猶予は国税徴収法152条3項・4項が準用)。
申請は当初の猶予期間が終了する前に行う必要があります。
「1年で完納できない場合はどうなるのか」は分納の相談で必ず出る論点ですが、道は用意されています。
消費税が猶予から外されているわけではありません。
国税通則法46条1項1号の括弧書きは消費税を対象から除いていますが、同項2号が「その災害のやんだ日以前に課税期間が経過した課税資産の譲渡等に係る消費税」を独立の対象類型として掲げています。
条文の形が特殊なだけで、消費税だけが猶予制度から排除されているという理解は誤りです。
猶予該当事実は、災害・盗難(1号)、納税者又は生計を一にする親族の病気・負傷(2号)、事業の廃止・休止(3号)、事業につき著しい損失を受けたこと(4号)、これらに類する事実(5号)の5類型です。
いずれも納税者の責めに帰することができないやむを得ない理由により生じたものに限られます。
「他の国税の滞納がないこと」が要件になっているのは、申請による換価の猶予だけです。
納税の猶予にも、職権による換価の猶予にも、この要件は置かれていません。
この差が、後述する税目間の論点に直結します。
換価の猶予を受けようとする場合は、換価の猶予申請書(様式28C006)に所定の書類を添付し、猶予を受けようとする国税の納期限から6月以内に税務署長へ提出します(国税徴収法151条の2第1項・3項、徴収令53条1項・2項)。
納税の猶予の場合は納税の猶予申請書(様式28C001)です。
添付書類は猶予を受けようとする金額により分かれます。
100万円以下の場合は「財産収支状況書」(様式28C037)1部、100万円を超える場合は「財産目録」(様式28C038)及び「収支の明細書」(様式28C039)各1部です。
なお、この添付書類の区分を判定する際の金額には未確定の延滞税を含めません。
担保は原則として必要ですが、次のいずれかに該当する場合は不要です(国税通則法46条5項ただし書。換価の猶予については国税徴収法152条3項・4項が同項を準用)。
猶予に係る税額が100万円以下である場合、猶予の期間が3月以内である場合、担保を徴することができない特別の事情がある場合です。
この100万円の判定には未確定の延滞税を含めます。添付書類の区分の判定とは基準が異なる点に留意が必要です。
さらにこの判定は、猶予を受けようとする国税以外に猶予の申請中の国税又は既に猶予をしている国税があるときは、これらの国税の額を含めて行うものとされています(通基通46条関係13-7)。
申請書の「納付すべき国税」欄は、税目・年度・納期限・本税・加算税・延滞税・利子税・滞納処分費・備考という列構成の表になっており、申請時に未納となっている国税を全て記載したうえで、備考欄で猶予を受けようとするものに印を付ける構造になっています。
1枚の申請書に複数の税目・年度・納期限を並記できます。
消費税については、申請書の税目欄が「消費税及地方消費税」となっており、地方消費税も一体で猶予の対象になります。
条文の主語を確認すると、判断の対象が明確に定まっています。
国税通則法46条2項
「……納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、納税者の申請に基づき、一年以内の期間を限り、その納税を猶予することができる。」
国税徴収法151条の2第1項
「……滞納者がその国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは……」
国税通則法2条5号は「納税者」を、国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者(第二次納税義務者及び保証人を除く)などと定義しています。
法人の消費税の納税者は法人、代表者個人の所得税の納税者は代表者個人であり、両者は国税の手続上それぞれ別個の納税者です。
猶予を受けることができる者も、納税者・国税の保証人・第二次納税義務者に限られます(国税通則法52条6項、国税徴収法32条3項による準用)。
「代表者個人が分納していないと法人は申請できない」
「代表者個人に滞納があると法人の猶予は認められない」
このような要件を定めた規定は、国税通則法46条・46条の2、国税徴収法151条・151条の2、国税徴収法基本通達、国税庁の事務運営指針「納税の猶予等の取扱要領」、申請書様式および「猶予の申請の手引」、国税庁「国税の納税の猶予制度FAQ」のいずれにも見当たりませんでした。
申請による換価の猶予にある「申請に係る国税以外の国税の滞納がないこと」という要件についても、条文は「当該申請に係る国税以外の国税」と定めており、申請者自身の国税を指すものと読むのが自然です。
他人の国税を含むとする記載も見当たりません。
したがって、法令の建付けとしては、法人の猶予は法人自身の事情と納付能力で判断されると考えられます。
もっとも、「互いにまったく影響を及ぼさない」と言い切るには留保が必要です。
許可要件ではないものの、実務上つながる経路が3つあります。
猶予を受けようとする金額が100万円を超える場合に提出する「収支の明細書」には「家族(役員)の状況」欄があります。
国税庁「猶予の申請の手引」の記載要領は、納税者が法人の場合について、全ての役員の役職・氏名・生年月日・月の報酬額・所有財産等を記載するとしています。
代表者を含む役員の報酬額と所有財産が、申請の段階であらかじめ示される建付けになっています。
| 制度 | 質問検査権の根拠 | 相手方 |
|---|---|---|
| 納税の猶予 | 国税通則法46条の2第11項 | 当該申請者に限られる |
| 申請による換価の猶予 | 国税徴収法141条 (152条4項は46条の2第11項を準用していない) |
滞納者のほか、滞納者に対し債権若しくは債務があった者、滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者、滞納者が株主又は出資者である法人 |
つまり、申請による換価の猶予では、代表者個人が法人に対して貸付金や借入金を有している場合などには、代表者個人が質問検査の相手方となりうることになります。
納税の猶予と換価の猶予で扱いが異なる点は、区別して理解しておく必要があります。
納付能力調査は、納税者の当座資金の額からつなぎ資金の額を控除して現在納付可能資金額を算定します。
つなぎ資金は、法人の場合は「事業の継続のために当面必要な運転資金の額」のみ、個人の場合はこれに生活費を加えた額とされており、法人の計算に代表者個人の生活費や個人資産を取り込む定めは置かれていません。
ただし事務運営指針は、「事業の継続のために必要不可欠な支出」に該当しないものとして次を挙げています。
添付書類である財産収支状況書の支出欄にも「給与、役員給与」の項目があります。
「代表者個人が所得税を納付できている」という事実それ自体が、法人の猶予の不許可事由になるとは考えにくいところです。
しかし、代表者への役員報酬が高い水準にある場合には、それが法人の運転資金の算定において問題にされ、実質的に近い論点が別の角度から出てくる可能性があります。
そのとき議論されるのは「代表者個人の財布から法人の税金を払え」ではなく、「法人が代表者へ支払っている金額は、事業の継続のために必要不可欠な支出と言えるか」という点です。
論点をこの形に置き直せるかどうかが、説明の分かれ目になります。
仮に代表者個人の納付状況のみを理由に不許可の示唆があった場合、根拠条文と要件適合性の説明を求めることができます。
猶予の不許可については、根拠条文・要件・不許可が要件に適合する理由を説明することとされ、書面の交付を求めることもできます(行政手続法35条2項)。
不許可処分は不服申立ての対象にもなり、処分があったことを知った日の翌日から3月以内に行う必要があります(国税通則法75条、77条1項)。
ここは直感と結論が食い違いやすいところです。制度によって答えが逆になります。
| 制度 | 他の国税の滞納があるとき | 根拠 |
|---|---|---|
| 納税の猶予 | 猶予を受けられる | 他の滞納がないことは要件とされていない。 国税庁「国税の納税の猶予制度FAQ」問19が明示。 |
| 職権による換価の猶予 | 要件とされていない | 国税徴収法151条1項 |
| 申請による換価の猶予 | 適用されない | 国税徴収法151条の2第2項 |
国税徴収法151条の2第2項
「前項の規定は、当該申請に係る国税以外の国税(次の各号に掲げる国税を除く。)の滞納がある場合には、適用しない。」
つまり、同一の納税者について、法人であれば法人税と消費税、個人であれば所得税と贈与税というように税目が異なっていても、他方が滞納のまま残っている限り、申請による換価の猶予は使えません。
この制度においては、同一納税者の中で税目間は別々になりません。
事務運営指針は、「個人の同年分の申告所得税と消費税、修正申告に係る本税と加算税など、近接して納期限が到来する国税についても滞納となることが見込まれるときは、その国税についても合わせて換価の猶予の申請をすることを勧奨する」としています。
実務上も、複数の税目をまとめて申請する運用が想定されています。
一方で、猶予を受ける対象を一部の税目に絞ること自体は可能です。
申請書の「納付すべき国税」欄は税目・年度・納期限ごとの記載単位になっており、申請時に未納の国税を全て記載したうえで、備考欄で猶予を受けようとするものに印を付ける構造だからです。
ただし絞った場合、対象外とした国税は期限内に通常どおり納付しておく必要があります。
「猶予を受ける国税」と「期限内に納付する国税」を併存させることは差し支えありませんが、「猶予も受けず期限も過ぎている国税」があると申請自体が成り立ちません。
また、申請に係る税額の一部についてのみ猶予を認めることができる場合には、猶予に該当しない部分の税額を通常要する期間内に納付するよう指導し、その期間内に納付しないときは納税について誠実な意思を有しないものとして不許可とする取扱いが定められています。
一部許可という処理も制度上想定されています。
なお、納付すべき国税について既に納税の猶予を受けている場合には、その国税について申請による換価の猶予をすることはできません(徴基通151条の2関係10)。
制度を重ねて適用することはできない建付けです。
原資は一つ、という当たり前の事実も効いてきます。
納付能力調査は納税者単位で一体的に行われ、収支の明細書には「今後1年以内に納付すべきことが見込まれる国税及び地方税等」を記載する欄があります。
担保が不要となる100万円の判定も、他に猶予申請中・猶予中の国税があるときはそれらの額を含めて行うものとされています。
同一納税者の中では、他の税目の状況が事実上見られることになります。
他方で、この一体的な算定はあくまで納税者単位であり、法人と代表者個人という別々の納税者の資金を合算する定めは見当たりません。
法人が納税できない場合に代表者個人へ納付を求める話は実際に存在します。
ただし、代表者であるという理由だけで法人の国税について納税義務を負うことはありません。
第二次納税義務は国税徴収法33条から41条までに類型が法定されており、いずれも滞納処分を執行してもなお徴収不足が生じることを前提とするため、滞納前の段階で直接問題になる規定ではありません。
| 類型 | 向き | 要点 |
|---|---|---|
| 無償又は著しい低額の譲受人等 (国税徴収法39条) |
法人 → 個人 | 法定納期限の1年前の日以後に滞納者が行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因して徴収不足が生じたとき。 相手が親族その他特殊関係のある個人や同族会社の場合は、責任の範囲が「受けた利益の限度」に広がる。 |
| 清算人等 (国税徴収法34条) |
法人 → 個人 | 解散・清算の局面に限られる。 |
| 合名会社等の社員 (国税徴収法33条) |
法人 → 個人 | 対象は合名会社・合資会社と士業法人の社員。 株式会社の代表取締役は対象外。合同会社も含まれない。 |
| 同族会社 (国税徴収法35条) |
個人 → 法人 | 向きが逆。滞納者が保有する同族会社の株式・出資が再度換価に付しても買受人がない場合などに、その会社が株式又は出資の価額の限度で義務を負う。 |
第二次納税義務者から徴収しようとするときは、納付通知書により告知しなければならないとされています(国税徴収法32条1項)。
この告知は不服申立ての対象となる処分です。
また、第二次納税義務者の財産の換価は、原則として主たる納税者の財産を換価に付した後でなければ行えません(同条4項)。
第二次納税義務者から主たる納税者への求償権の行使も妨げられません(同条5項)。
したがって、法的な納付義務の追及と事実上の任意の求めは区別して理解する必要があります。
代表者個人が自らの意思で法人の国税を第三者として納付すること自体は可能ですが(国税通則法41条1項)、法的な義務ではありません。
なお、法人格否認の法理を国税の徴収の場面で適用した最高裁判例は確認できませんでした。
私法上の一般法理としては最高裁昭和44年2月27日判決がありますが、徴収分野への適用可能性は税務大学校の研究論文で検討が試みられている段階であり、現行法上当然に適用されるものとは考えにくいところです。
猶予が認められた場合の延滞税は国税通則法63条により扱われます。
ここで注意が必要なのは、全額免除と2分の1免除の切り分けが、猶予の種類ではなく猶予該当事実の内容によって決まる点です。
| 免除の範囲 | 対象 |
|---|---|
| 全額免除 (猶予等をした期間に対応する部分) |
相当な損失を受けた場合の納税の猶予(46条1項) 通常の納税の猶予のうち、猶予該当事実が災害・盗難(2項1号)又は病気・負傷(2項2号)である場合 2項5号のうちこれらに類する事実に係る部分 滞納処分の執行の停止(国税徴収法153条1項) |
| 2分の1免除 (納期限の翌日から2月を経過する日後の期間に対応する部分) |
通常の納税の猶予のうち、猶予該当事実が事業の廃止・休止(2項3号)又は事業につき著しい損失(2項4号)である場合 2項5号のうちこれらに類する事実に係る部分 一定期間後に税額が確定した場合の納税の猶予(46条3項) 換価の猶予(国税徴収法151条1項・151条の2第1項) |
同じ通常の納税の猶予でも、災害や病気を理由とする場合は全額免除、事業の廃止や著しい損失を理由とする場合は2分の1免除となります。
どの猶予該当事実を主張するかによって延滞税の負担が変わるため、申請の組み立てで意識すべき点です。
なお、猶予の取消しの基因となるべき事実が生じた場合には、その日以後の期間について免除をしないことができるとされています(63条1項ただし書)。
免除される部分以外についても、納付が困難と認められる場合等には裁量による免除の余地があります(63条3項)。
申請書または添付書類に不備があるときは補正が求められます。
通知を受けた日の翌日から起算して20日以内に補正しなければ、その期間を経過した日に申請を取り下げたものとみなされます(国税通則法46条の2第7項から第9項)。
実体的な要件を満たしていても申請そのものが消えてしまうため、最も注意を要する点です。
猶予の申請中・許可後も督促状は届きます。
国税庁「猶予の申請の手引」は、換価の猶予の申請があった場合や許可された場合であっても督促状が申請者に送付される旨をあらかじめ案内しています。
督促状が届いたことをもって「申請が通らなかった」と誤解しないよう、留意が必要です。
質問に答えないことは不許可事由です。
国税通則法46条の2第10項2号は、申請者が質問に答弁せず、検査を拒み、又は正当な理由なく物件の提示・提出に応じない場合を不許可事由として挙げています。
前述のとおり申請による換価の猶予では質問検査の相手方が滞納者本人に限られないため、この点との関係も意識しておく必要があります。
申請期限を過ぎた場合の救済は限定的です。
災害など納税者の責めに帰さないやむを得ない理由により申請ができない環境であった場合には、申請期限を個別に延長できる場合があるとされています(国税通則法11条)。
ただしこれは例外的な取扱いであり、原則は期限内の申請です。